すこやか生活

音楽 Twitter@_sui101sui_

表札と春

 

という曲を書きました。

ほぼ1日で完成しました。(というと制作早い人っぽく聞こえるかなと思ったけどこの曲は楽器がピアノだけなので早くて当然なんですよねわはは)

 

あまりいろいろ話すのが野暮なのはわかっているのだけど、私の気持ちの整理のためにちょっと書かせてください(長い)。とても個人的なことだし、作曲背景の出来事ゆえ、ある意味では余白を減らしてしまうので、アレな人はここで戻ってください。

 

 

 

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冬の後半頃から爺が入院しており、この休みを使って家族で見舞いに行った。

婆が亡くなって6年弱、手術と退院を繰り返しながらも広い一軒家で1人生活を続けていた爺が、あっという間に寝たきりになってしまった。

久しぶりに見たその顔は入れ歯がないことを差し置いても痩せこけていて、食事はおろか声を発するのも難しい状態だった。別人のようだった。

意識はどこまであるのかよくわからない。1分単位で寝たり起きたりを繰り返す。目が開いていても焦点が合っていない時もある。父にあらかじめ「あんた誰?って状態になっている可能性もある」と言われてはいたのでそれなりに覚悟はしていたのだが、明確なコミュニケーションがとれないうちは本当に辛かった。父が「みんなで来たよ」と言うと「しあわせだな」と言ったのが聞こえたが、それぞれが誰かわかっているのかはその時わからなかった。

ただ一度だけ、私のことを見て(その時はきちんと焦点が合っているのがわかった)、今にも消えそうな声で名前を呼んでくれた。私のことをしっかりと覚えていた。

泣いてはいけない、今泣いてはいけない、そう思っても涙はぐんぐん溜まって、零してたまるものかと目線を逸らしてしまって、いやこれもダメだどうしよう、と堪えまくっているうちにまた爺は眠りに入っていった。

爺は昔から恐ろしく頑固で、俺がルールみたいな人だった。ここ最近では私の好きなものを酷い言葉で貶されてガチ切れしそうになったこともある。歳を重ねるほど私の頑固さもガチガチになってきて(自覚)(あまりにも遺伝子)、他にもまぁ頭を抱える出来事がちょいちょいあり、私は爺が亡くなったとき泣けるのか?と思ってしまう時すらあった。でも、懸命に生きている姿を見ただけでこんなに苦しくて、生きてくれ、生きてくれとしか思えなくて。

年に2回泊まりに行くことが何よりの楽しみで、1週間前から準備を始めていた頃。婆の手料理で食卓を囲んでワイワイしていた頃。本家に親戚が集まって大宴会をしていた頃。

今食卓を囲むのは実家と同じ人数で、家主不在の家に食材を残さぬよう、食事は出来合いの弁当と缶ビール。台所のテーブルには入院する2日前にスーパーで食材を買ったレシートが置いたままだった。冷蔵庫にはレシートにあったとおりの数のたくあんが入っていた。これが時間の経過というものだ。わかっている。諸行は無常なのだ。

それでも私たちは目の前の課題をひとつずつ片付け生きてゆく。人生は続く。

家庭菜園や花が好きだった婆が無くなってからというもの、家の周りは殺風景になっていたが、いつか球根で植えていたであろう水仙が、不自然な位置にわさわさと自生していた。去年もあったのだろうか。基本的に夏冬しか来なかったのでわからないが、とてもきれいに咲いていた。

爺を入れる施設を探して両親と親戚が見学に行っている間、弟と2人車内に残っていた。婆が存命の頃だった気がするが、いつかの夏、私がぽつりと「あと何回こうしてここに来れるんだろう」と呟いたことで弟が泣きそうになってしまったことがあった。そしてこの日、「僕たちも見学に行った方がよかったんじゃないか」と弟が言うので、私たちには選択できないし、それは何故か?と問うと、「いつか父母もこうなるから」という答えがなんの詰まりもなくするりと返ってきた。ああ、時間は流れているんだな。

そうやってひとつひとつにセピアとセンチメンタルを感じながら春風に吹かれた数日間だった。

婆は私の成人式を見られずに亡くなってしまった。爺はずっと私の子供を見るまでは死ねないと言っていた。私がそういう圧に嫌悪感を持つのはお察しの通りだが、あ〜じいちゃんそしたら不死になっちゃうよwくらいに流していた。

じいちゃん、不死は無理でもせめてもっときらきらした私を見て欲しいよ。もう少し時間がかかりそうだけど、子供よりは現実的だと思うからもう少し待っていてほしいよ。あなたは現代音楽が大嫌いだよね。孫の私が歌う歌を聴いたらなんて言うんだろうね。

 

病室で流れていたラジオで聴いた松山千春の 大空と大地の中で が忘れられない。すっかり記憶と紐付いてしまった。

 

音楽のそういうところが大好きだ。

 

読んでくれてありがとう。